先ず最初に一言、今回ばかりは「寝て下さい」が正解かと思います。眠気に対する一番有効な手段は「もっと寝ること」。元も子もない結論になってしまいますが、これにはきちんとした理由がある…のですが、その前に睡眠に関するいくつかの誤解を解くところから始めた方が良さそうです。
1つ目の大きな誤解がこちらです。睡眠の科学的研究がはじまってから約100年経ちますが、実は「謎だらけ」といってもよい状況です。世界的な睡眠研究の権威である、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授によると、「なぜ生物は眠るのか?」「どうして眠くなるのか?」という根源的な謎は、未だ解明されていないそうです。
睡眠の科学的研究の幕開けは、1924年ハンス・ベルガーによる「脳波」の発見とされます。その後フォン・エコノモによる「嗜眠性脳炎」という病理研究をきっかけに睡眠に対する科学的なアプローチが発展し、1950年代には「レム睡眠/ノンレム睡眠」の発見という大きな飛躍を遂げます。
ですが、その後の研究によって睡眠を誘導する脳内物質や、反対に覚醒を司る物質が発見されている今も、生物が眠る理由それ自体はヴェールに包まれたままです。
つまり、私たちが普段触れている「眠り」や「良質な睡眠」に関する情報は、こうした睡眠の正体=ブラックボックスを前提として語られている、という点を理解しておきたいです。情報に囲まれた生活をしているとつい忘れがちですが、人類が解明していないことは、まだまだ沢山残されているんですよね。
良質な睡眠のために「1日6〜8時間」や「早寝早起き」が推奨されることがありますが、こうしたメソッドも注意を向けるべきかもしれません。年齢ごとに推奨されている睡眠時間はありますが、実は必要な睡眠時間というのはかなり個人差があると言われています。長年の習慣で5〜6時間睡眠としていても、実は10時間が必要睡眠時間量だったということもあり得るわけです。
※千葉県医師会広報紙「ミレニアム」第64号(
つまり理想の睡眠というのは、時間だけに焦点を絞っても「人それぞれ」であり、しかも年齢によっても変化していくケースバイケースな代物。誰にも当てはまる理想像はありません。
むしろ、自分にとっての理想の睡眠時間は、自らの身体を使って実験し検証するべきです。「あ、これ以上寝ていても仕方ない」という感覚を覚える睡眠時間を見つけることが、「自分が何時間眠れば充分なのか?」と知ることに他ならないんです。
つけ加えると、ここで探し当てた睡眠時間が「理想に近い」かは、日中の状態と、平日/休日の睡眠量の差、眠りにつくまでの時間、という3つの指標から測ることが出来ます。
チェックポイント
2. 平日/休日の睡眠時間の差が、2時間以上である
3. 眠るまで8分以内と、ほとんど時間がかからない
これは、寝不足状態が「睡眠不足症候群」という一種の病気として判断される基準で、睡眠が理想に近ければチェックの数はゼロになっている筈です。
ランチ後に眠気を感じる方に「栄養?いやいや寝て下さい!」お伝えしたのは、まだその実態が完全に解明されていない睡眠課題に対しては、「きちんと寝る」ことが大大大前提ですよ、ということを改めて理解してほしかったからでした。
「おい、GABAとか睡眠に良いんじゃないのかよー?」と思った方、素晴らしいご指摘ですが、GABAは睡眠そのものに作用するのではなく、眠りやすくするために身体をサポートする成分に過ぎません。眠気を解消する一番の方法は、現在のところは「睡眠」そのものに他ならないんです。
勿論いくつかの栄養素が睡眠に関わっていることも確かですが、睡眠に王道なし、自分にとっての理想を探し、そしてその生活習慣を守ることのほうがはるかに重要だと思います。