睡眠メカニズムの「ココ」が分かってない

今回も睡眠がお題です。前回は眠気を解消するためには「睡眠>栄養」が大切です、という基本に立ち返りましたが、結局なにが「睡眠の謎なのか」にはフォーカスしきれませんでした。今日はさらに、奥深い睡眠の世界に迫ってみたいと思います。

 

みなさん一番睡眠時間が長いと言われる動物をご存知ですか?活動しなさそうな哺乳類の代名詞・ナマケモノを抑え、ロングスリーパーだと言われているのが「コアラ」です。その睡眠時間、なんと1日22時間(ほとんど動かないので、動物園向きではなさそうですね)。反対に、もっとも睡眠時間が短い動物は「キリン」だそうで、わずか1日20分しか眠らないそうです。ウマ・ヒツジ・ウシといった草食動物も時間にして平均2〜3時間睡眠と、ショートスリーパーな傾向があります。

実はこの睡眠という生理現象、哺乳動物のみならず、爬虫類や魚類などの脊椎動物、さらにショウジョウバエなどいわゆる下等動物でも確認されていますし、さらにさらに脳を持たないヒドラといった動物も眠ることが分かってきています。こうした事実から「すべての動物は眠る」という事が結論できそうです。

ですが睡眠は、外界からの刺激に対して無防備になる、危険極まりない行為です。それにも関わらずなぜか動物は睡眠時間をゼロにすることはありません。命の危険というリスクを背負ってでも余りあるメリットがある筈なのですが……現時点ではそれが何であるか、はっきりしたことは分かっていません。

 

睡眠研究に残されているもう一つの謎が、「睡眠時間をどうやって一定に保っているか?」です。
個々の動物はそれぞれ平均的な睡眠時間をもっていますが、これは眠気→睡眠→覚醒というサイクルのなかでほぼ一定に保たれています。これには「ししおどしモデル」という仮説があります。

この仮説は、「眠気のもと」が活動中に溜まっていき、一定量になると眠気が発生し、そして睡眠をとることで「眠気のもと」が排出され、睡眠時間が一定に保たれるというものです。
つまり睡眠不足によって「眠気のもと」が排出しきれていない場合は、より眠気を感じるという訳です。ただしこのモデルに則りますと、「眠気のもと」が一番少ない=眠気を感じないのは起床直後ということになるのですが…私たちの経験からはかけ離れているように思えます。

現在では、体内時計が活動レベルを制御しているため、眠気のピークと「眠気のもと」の蓄積量が必ずしも一致しないという仮説も議論されてはいるものの、この「眠気のもと」に当たるものが結局何であるのかはよく分かっていないというのが実情のようです。

 

いわゆる三大欲求と比べてみましょう。食欲は生命活動のもととなるエネルギーを生産するためのスイッチですし、性欲は種族保存や遺伝情報をコピーしていくための現れとして説明することが出来ます。それぞれ、そのメカニズムについても多くのことが解明されています。

しかし睡眠に関しては、ここまでの話の通り、

外界刺激に対して無防備になるというリスクを犯してでも睡眠を必要としているが、睡眠による生物としてのメリットが何であり、しかもどのようなメカニズムで制御されているのか根本的に分かっていない

ということになります。

ちなみに「睡眠は脳を休めるため」と耳にすることもありますが、大脳皮質における神経細胞の活動はノンレム睡眠中でも覚醒中と同等、レム睡眠中はそれ以上になるという報告もあり、脳の活動を休止させるための現象ではないという見解が現在では一般的なようです。

一生の1/3を費やしている「眠り」が、いまだ未知の領域であるということにわたし自身は新たな可能性を感じてしまうのですが…みなさんはいかがでしょうか?