低気圧で天気が不安定になると、頭痛がする・めまいがする・関節が痛むなどの症状は古くから言い伝えられています。天候と病気不調の関係は個人差も大きく、「気の持ちようでしょ?」といったご意見が出てくることもありますが、アカデミックに研究する“生気象学”という分野もあるんです。
天候の変化に伴う不調を総称して「気象病」と呼ばれることも多く、私もそれに従っています。さて、気象病が実際に研究されているなら、生気象学の論文を紐解くことでその原因も丸わかりじゃん、眠気と低気圧に因果関係があるかも分かるじゃん、と私も思っていました。ところが、話はそう簡単でもなく…。
まず、初期の生気象学が明らかにしたことを整理すると以下の3点になりました。
1. 統計的にいうと天気は体調に「影響する」
2. 医者の経験に照らし合わせても「影響する」と言えそう
3. 体調に影響しやすい気象条件がある
※片山功仁慧(1974)近年のドイツにおける生気象学的研究(続),地理学評論 47-1
言ってしまえば、気象統計や医者の経験からみても「こういった天気は、不調を起こしがちだよね」ということに尽きます。つまるところ「雨の日は、古傷が痛むんだ…」というのとあんまり変わらないところからスタートしたわけで、現在も具体的な気象病の原因を明らかにするまでは至っていない、とのことでした。
人体にまだまだ多くの謎が残されている一方、アカデミックな研究だって日進月歩です。実は近年、気象病のメカニズムの解明におおきく貢献する研究報告が発表されています。
この気象病。発生理由が特定できなかった大きな要因は「哺乳類は気圧を感じることが可能なのか」、また可能ならば「どの器官を使っているのか」の2点が明らかでなかったからなのですが、なんと2019年中部大学・佐藤純教授らの研究グループが、内耳の前庭器官に気圧を感じる能力があることを世界で初めて突き止めました。
さらに凄いのは、この研究が内耳にある気圧センサーによって自律神経が影響を受けることも強く示唆している点です。
低気圧→内耳センサー→自律神経→気象病
という因果関係の可能性が高まったことで、今度は低気圧時の偏頭痛や倦怠感、眠気といった原因の解明と対処法が確立できるかも知れないんです!
今回頂いたお問い合わせは実に良い質問で、ご紹介した研究でも現在まさに壁にぶつかっている点なんだそうです。低気圧が自律神経の乱れを引き起こしていそうだぞ…という所まではおそらく間違いないのですが、立証できているのは「交感神経優位」の乱れについてです。
人の自律神経は大きく「働けー!」と身体に命令する交感神経と、「休めー!」を命令する副交感神経に分かれます。私たちが眠い・ダルいと感じるのは「休めー!」の状態。つまり低気圧によって発生するらしい「働けー!」の交感神経優位とは明らかに矛盾しています。そう低気圧は、気象病を引き起こす原因になるけれど、眠気やだるさを発生させているのかは分からないということです。
もしかすると、悪天候による日照不足が関係しているかも知れないし、湿度や寒暖差など、気圧の変化に「眠気」のヒントが隠されているかも…というのが最新の研究状況です。やはり人体は謎が深い…
とはいえ、低気圧と眠気に関係ナシ!とも断言できませんし、そういった報告事例が多数あるのも事実。まずは「休息と栄養」という鉄板の方法で自律神経の乱れに備えるのが良さそうです。